こんにちは。
今年も花粉症がやばいヘッドブルワーの伊藤です。
麺類が好きなのですが食べてるときは特にしんどいです。鼻をすすり、麺をすすり、空気を吸い込み過ぎて肺が破裂しそう。
今回のcolumnは、先週に引き続きビール醸造のフローの説明になります。
はじめにこれまでの醸造工程のおさらいです。
〇原料
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水
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麦芽
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ホップ
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酵母
〇フロー
- 糖化で水と麦芽を混ぜ合わせ煮込むことで、麦芽が持つアミラーゼによって、麦芽のデンプンをグルコースに分解しています。Better life with upcycleでは麦芽だけでなくパンのミミもデンプン質として入れてます。
- 水と麦芽(+パンのミミ)が混ざった状態を「麦芽もろみ」といい、この状態から濾過をして煮沸タンクに「麦汁」という液体のみを移します。
- 麦汁を煮沸していきます。ここでは煮沸による殺菌効果だけでなく、ホップを入れることで苦みと香りを目的に行います。
ざっとこんな感じでしたね。
それでは【発酵・熟成】編に入りましょう。
◎発酵とは?
発酵とはビール醸造では「アルコール発酵」を意味することが多いです。
酸っぱいビールを仕込むときの乳酸発酵もありますが、主に発酵とはアルコール発酵を指します。
そもそも何で酵母がアルコール発酵をするかというと、酵母は生きていたいのです。
哲学っぽい言い回しになりましたが、要するに生きるためのエネルギー源を生産するためにアルコール発酵をするわけです。
ここでのエネルギー源とはATP(アデノシン三リン酸)のことで、アデノシン(A)に3つのリン酸(TP)が結合した化合物です。
このリン酸の結合には高いエネルギーが内蔵しており、これを分解しADP(アデノシン二リン酸)にしてエネルギーを生むことで酵母は生きていけるのです。
しかし、酵母は最初からアルコール発酵をするわけではありません。
まずはじめに「呼吸」を行います。
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【化学反応式(呼吸)】
C6H12O6(グルコース) + 6 O2(酸素) + 38 ADP + 38 H3PO4(リン酸)
→ 6 H2O(水) + 6 CO2(二酸化炭素) + 38 ATP
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酸素が存在する環境下では、はじめに「呼吸」を行います。
呼吸の方が1つのグルコースでATPを多く生むことができるので効率的です。
そうしてエネルギー源をつくり菌数が増えてくると、液中の酸素がなくなっていきます。
ここでアルコール発酵の出番です。
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【化学反応式(アルコール発酵)】
C6H12O6 + 2 ADP + 2 H3PO4 → 2 C2H5OH (エタノール)+ 2 CO2 + 2ATP
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こうして麦汁がアルコール飲料になっていきます。とはいえ、味わいはまだまだビールには程遠いです。
発酵を終えると、液温を下げ凝集沈殿した酵母を取り除きます。
この状態を「若ビール」といい、若ビールに【熟成】をかけていき製品にしていきます。
◎熟成とは?
若ビールを0℃付近で寝かせることで、酵母やタンパク質など濁りや雑味の成分が沈降していくので、クリアでノイズのない味わいにしていくことです。
生成されたばかりのアルコールもアルコール同士がくっついた大きなコロニーの状態だと飲んだ時にピリつくのですが、熟成をかけていくと水分子と混ざり合いカドが取れて柔らかくなっていきます。
ここまでいけたらビールの完成です。お疲れ様でした。
現場ではどのような作業をしているのでしょう。
◎工程
煮沸を終えて、目の前にはにはアツアツの麦汁が煮沸タンク内にあります。
これを発酵タンクに移すのですが、このままだと使用する酵母がみんな死んでしまいます。
そのため、移送途中にある熱交換器に通して、麦汁の温度を下げていきます。
例えば定番のAmerican Wheat や IPA だと、20℃くらいをターゲットにしてます。
そして発酵タンクに移し終えたら酵母を入れていきます。
液温が下がった状態をコールドサイドと呼ぶのですが、以前の液温が高いホットサイドは雑菌汚染のリスクはほぼないのですが、コールドサイドではとても注意が必要です。
入れた酵母は24時間以内に発酵が始まるのですが、始まるまでは本当に緊張します。
無事、発酵が始まると酵母がつくる二酸化炭素を目視できる機構が発酵タンクにはあるのですが、ボコボコしてる時がいちばん魅力的です。
7日間くらいで発酵が終えて0℃付近まで温度を下げると、酵母が沈殿していくので、それを引いていきます。若ビールの完成です。
発酵タンクはよくできたもので、下が円錐状になっており沈殿物をひきやすい形になってます。
そして熟成をかけていくと、ビールが完成します。
熟成期間はビールによってまちまちです。
アルコール度数が高いものだとなかなかアルコール感が柔らかくならないので、2ヶ月以上取る時もあります。
その後は、缶に詰められて皆様に届くようになります。
本当に奥が深くて楽しいビール作りです。作りたいビールは死ぬまでなくならない気がします。
あと自宅でも作れるキットも売ってますので、もし興味がわいたらやってみてください。
こんな駄文を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。